NPO法人子どもの森づくり推進ネットワーク

種の移動のガイドライン

2011年 全国の森林全般について、最先端の研究が行われている独立行政法人 森林総合研究所から「広葉樹の種苗の移動に関するガイドライン」が発表されました。それに伴い、「子どもの森づくり運動」でも、植樹活動に関して、生物多様性に配慮した、種のかく乱をふせぐため、子どもの森づくり運動独自の種の移動に関するガイドラインマップを作成しました。

1104植樹フィールドマップ_R

*上記マップは、種の移動可能な範囲を色別で示しております。

今回は、同研究所において樹木の遺伝子レベルで遺伝的保全研究や適応進化について研究なさっておられ、「広葉樹の種苗の移動に関するガイドライン」作成チームの中心的メンバーである津村義彦先生を訪ね、「木を植える」活動の基本情報についてお伺いしました。

なお、津村先生には、子どもの森づくり運動 種の移動に関するガイドラインマップの監修にもご協力いただきました。
作成した子どもの森づくり運動種の移動に関するガイドマップは、植樹フィールドマップという名前でインタビュー下に掲載しておりますので、植樹活動の際にご参照ください。。

*子森新聞2011年春号より (インタビュー時期:2010年秋)
*インタビュアー「子森ネット」清水

子森ネット:清水(以下清水)
ご自身のご紹介がてら、先生のご専門である、木の遺伝子研究について、簡単にお話しいただけますか。

「森林総研」津村氏(以下津村)
樹木の進化的な研究をしています。この世にいつ杉が現れて、どの種からどのように別れてでてきたのか、ブナがどうゆう風にしてこの世界にでてきたか他の樹種との関係などがDNAを調べると、よりクリアにわかる。
もうひとつは、いろんな環境にいろんな樹種があるですが、そこに生育している意味があるはずだと・・。例えば、どんぐりの仲間でも北に行けば、コナラ属など落葉の樹種が生育し、南に行くと、シイ・カシ類の常緑が多いですよね。それにも何らかの意味があって、そこには遺伝的に何かが違うのだろうと考え、そういう遺伝子を見つけたい。そう思って遺伝子の研究をしています。 

図1

(清水)わたしたちの様な、森づくり活動に関わっているものにとっては、とても役立ちますよね。もう少し、森づくりに関わる内容で、具体的にお聞かせいただけますか。

(津村)杉の天然分布は、南は屋久島から北は青森までです。また日本海にある裏杉系と太平洋側にある表杉系があります。それは針葉の形とか枝の形が違っていて裏杉系は、枝がしなやかです。雪がつきにくい。ついたら、枝も垂れて、雪を落しまして折れにくくなっています。表杉は、枝振りがしっかりしていて、雪がついたら折れちゃう。そういう風に、環境によって、生存に有利なものが淘汰されてきて残ってきている。このような特定の環境に適応した遺伝子を見つけてあげると、この地域だったらこの遺伝子を持っているものが育ちやすいとかがわかります。
このような遺伝子は、ほとんどの場合一個で成り立っているわけではなく、複数の関係で成り立っているので、よりよい遺伝子のタイプを持っているものを選んであげると保全の目的でも役立ちますね。
ここにこういう遺伝子があるので、“貴重だからこの木を守りましょう”ってことにもなりますし、林業においては、この遺伝子を持っている苗で山を作ってあげましょうとできますね。
人間でいうと、オーダーメイド医療っていうものがあって、人によって、同じ薬でも効き目が違いますので、遺伝子を調べて個人にあった薬を調合することができます。樹木でも遺伝子を見て、この地域にあった遺伝子を持つ樹木を植えてあげる。

(清水)日本の森づくりのデザインにとって、とても役にたつ学問ですよね。

(津村)将来的にはそうですね。
そこまで行くまでにはまだかかりますが今は、地域環境に適した遺伝子を見つけてあげる段階ですね。いくつか候補の遺伝子は見つかってきているので、10年くらい先には森の保全に役立つでしょう。
人間は環境をコントロールすることができますよね。住環境とか、生きてく環境とか、食べるものとか選択できる植物は、できないですよね。場所も選べませんし。だから、植林を行うときには人間がその環境に適した樹種や苗を選んであげなければいけないんですね。

(清水)「子どもの森づくり運動」の活動では、植えるフィールドを見つけることが一番大きなハードルで、これまでは主に、園や地元行政などのネットワークの中で、園のもよりで探しています。

(津村)かなり、気候帯に則していますね。夏は、日本海側も太平洋側も、どっちも暑くて、たくさん雨が降ってよく似ているので、問題はありません。
しかし、冬の日本海側は多雪地帯で太平洋側は乾燥しています。冬は日本海側と太平洋側で環境が全然違いますね。

(清水)昨年(2009年)は、豪雪で特にそうですよね。

(津村)何百年、何千年の間にそこに適したものが残って、淘汰されていくわけですね。だから、そこに生育できる植物が決まって、分布地域が違ってくる。後、標高でも気候帯に則して種が変わって、その中でも淘汰が進んでいきますから。
淘汰は最終的には新たな種ができることにつながることがあります。例えば、日本海側と太平洋側に同じ種がある場合、環境が長く違うと、同じ種でも遺伝的に少しづつ離れて行って、最終的に種分化が起こるのです。新しい種が、環境の違いによって生まれます。それで、いろんな種ができてきているんですよ。
もし全てが均一で環境の違いがなかったら、種分化というのが生まれない。似たものしかない。環境が違うから淘汰の方法が違う。ここは寒いから寒いのに強いものだけが生き残る。すごく湿度が高いところだったら、湿度に強い植物が生き残る。長い時間が経つと、少しづつ遺伝的に異なってきて、新たな種ができたり、同じ種でも遺伝
的に違うものができてくる。それを無理して人間が動かすと、特定の環境に適応した遺伝的な違いを人間が勝手に壊してしまう。だから遺伝的に異なるものを無視して、植えてはダメなんですよ。

(清水)なるほどね。今回、ご指導をいただいてガイドラインマップを作らせて頂いたのですが、我々だけでなくて、他の団体さんでも、木を植えるという活動をされているので、そんな活動をされているすべての団体おいて、気をつけなくてはいけない内容ですね。
実際にとても役立つ情報だと思いますので、繰り返しで申し訳ないのですが、あらためてもう一度、具体的なポイントについてお話しいただけますか。

(津村)地理的な距離もそうなのですが、同種であっても、環境の違うところで生育しているものは、そこに適応している遺伝子とそうでないものがあり、それを混ぜてしまうと、そこにその環境の淘汰をうけていないもの、受けたものの違いがありますから、最初は生き残るかもしれませんが、大きくはなれない。そのうち、子どもができて孫ができていくと、その環境に適応していない遺伝子が環境に適応している遺伝子に入っていってしまうので、元々あった適応した遺伝子をどんどん壊していくのです。
最終的には、また長い間淘汰を受けますから元の状態に戻るのですが、元の状態に戻るまで下手したら、何万年もかかると思います。

(清水)壊すのは簡単だけど、 ですね。

(津村)それこそ、壊すのは、10年20年で元の遺伝子の組成がガタガタに壊れるということですね。特定の環境に適応した遺伝子の組成が脅かされるんですね。一旦、壊れると千年では戻らないです。数万年かかるかもしれないですね。それを人間が、ある時に、あることで、壊してしまうと、本来の森に戻るのに人間でいうと、何百世代とかかってしまいますね。

(清水)深刻な話ですね。

(津村)そうなんです。遺伝子は目に見えないんです。木は寿命が長いので、なんか木が集まっていると一応は、森に見えてしまうんですよ。衰退していても、あきらかな衰退でない限り、微妙な衰退だと将来深刻になるかもしれなくても人間の目ではわからない。遺伝子だとある程度、白黒がわかることがあるんですよ。ですから、後に非常に問題になるので、あんまり由来の異なるものを簡単に植えないほうがいい。

(清水)つまりそれを、全国レベルでガイドラインが明確になってくると今後日本の森づくりの方向性(デザイン)がより明確になってきますね。

(津村)そうですね。保全のためにもこうゆう基準で森を守りましょうとか、決まりが出来たりして、最終的には行政機関がやらなくてはいけないのでしょうけど・・。
ただ、国民の意識が高くなれば、こういう保全に役立つデータがでているから、これは重要な問題だと認識してもらえるし、個人レベルでも意識が変わってくるかもしれない。

(清水)針葉樹に関しては「種苗法」というものがあるが、広葉樹に関しては、決まりはないんですよね?

(津村) なんにもないです。どこへ持っていってもいいです。外国から持ってきた外来種でない限り。外来種は、外来種法という法律があるので外来種を勝手に持ってきて、植えることはできません。逆に駆除しなくてはいけません。国内の広葉樹に関しては、規制がありませんので、どこへ持っていってもいいです。現状では。

(清水)もちろん、「とはいうものの・・」ってことにはなりますね。なので、我々の様な、森のフィールドワークに関わっているものや園の先生たちにとっても、このような情報が伝わるということは、大変ありがたいですし、環境意識も変わってくるでしょうね。今、ここに、「広葉樹の種苗の移動に関するガイドライン」という本が、できたてほやほやでここにありますが。この本が、今、先生のお話頂いたことが詳しく書かれているのですね。

(津村)そうですね。環境省から予算をいただいて、遺伝的なデータを使って広葉樹の種苗の移動に関することをまとめています。特定の樹種を選んで、人為的にどこまで種苗を動かしていいよというような内容です。研究した結果を樹種別にガイドラインとしてまとめています。

(清水)私たちも全国をフィールドにした活動ですので、こういったものがあると、本当に助かります。ざっくりした内容を説明してもらえますか?

(津村)先ほども申しました通り、特別な法律がないので広葉樹はどこに動かしてもいいのですが、遺伝的に異なったものを植えると問題が生じるのではないかと5年間かけて広葉樹の遺伝的な違いを研究してきました。その結果、10種の広葉樹について種苗をどこまでだったら動かしてもいいかというガイドラインを作成しました。
そのためには、全国から材料をとってきて、DNAを調べました。どことどこが似ているのか、違うのかを遺伝子を用いて調べます。そうすると、日本列島のなかで遺伝的に一番違うところに線が引ける。で、線のひきかたも、二つの種類のDNAを解析しました。ひとつは、核(父、母の両方から遺伝する)のDNAと葉緑体の中にあるDNA(母からだけ遺伝する)です。
特に葉緑体DNAは母親からしか遺伝しませんから地域間の遺伝的な違いがよくわかります。最終的には核と葉緑体の二つのDNAを見てみてAとBの森は遺伝的に違いますよということで切り分ける。どんぐりの仲間はクヌギとコナラとミズナラの3種類がこの本にはあります。それで、線をひいたのがこれです。
実は、クヌギは線がないのです。なんでないかというと、クヌギは人が中国や韓国から持ってきたのではないかとも言われています。このひとつの証拠に日本の里山にしかないです。山奥にはほとんどみられないのです。

(清水)それは、全国でどんぐりを拾っていて感じます。

(津村)これは研究グループ内の東京大学の研究成果ですが、中国と韓国内では遺伝的な多様性があるのですが、日本国内ではほとんど遺伝的な多様性がなくなっています。みんな同じになっているのです。よく見ると、韓国の一部と同じような遺伝子のようなので、そこから種がきて、日本中にひろがったようにみえます。これが起こったのはかなり昔のようですね。それが、日本に適応して広がっているみたいです。

(清水)クヌギは、保育園、幼稚園では一番人気ですよ。丸くて、かわいい形をしています(笑)

(津村)これは今のところ、どこへ動かしても大丈夫。スダジイは、ちょっと変わっていて、線を引くとすれば関東のあたりですね。
図2

(清水)日本の森というのは、世界の森と比べて、樹種は多様なのですか

(津村)一般的な傾向として、北にいけば、樹種は少なくて、南にいけば行くほど、種多様が多いです。これが一般的です。北欧にいけば、大きくなる木であれば5種類も知っていれば森の木は全部言い当てられるぐらい単純です。針葉樹は2種類、広葉樹が3種類とかです。
日本にくると、1ヘクタールに何十種もでてきますね。ですから、種多様性が高いですね。熱帯にいけば、1ヘクタールに何百種もでてくる。
日本は、種多様性は高い方ですね。なぜかっていうと、降水量がある程度あって植物の生育に適しています。そういう意味で、種多様性のレベルが高いということになります。世界的に森林国であるのは、気候条件があっているということですね。そのため全体の国土の7割が森林になっています。日本のどこでも乾燥しているところがないですので、植物の無いところがないですよね。そういう意味では多様ですね。

(清水)人も含めて多様性は、やはり意味のあることですね。植物が多様である場合とそうでない場合で、メリット、デメリットあるのですか。

(津村)ひとついえるのは、種多様性が高いと植物以外の昆虫とかも多様で、生態系として豊かになり、いろんな種が共存できますね。もし同じ種内で遺伝子の多様性が減ってくると、遺伝的に、近いものだけで交配してしまう。樹木の場合、基本的に他殖と言って、別の個体から花粉をもらって、種を作ります。
それが遺伝的に近い個体から花粉をもらうと、生育に不利な個体になる場合があります。遺伝的な多様性が低くなると、交配によって悪い遺伝子が出会うチャンスが増えてしまって、できた種子の生育が悪かったり、生育できなかったりします。そうなると絶滅の方向に向かってしまう種内の遺伝的多様性がある程度あると、気候が大きく変わった時、そこに適応できるような遺伝子を持った個体が、生き残って行けるチャンスがある。
多様性が低いと絶滅しますが、高いと進化できる。こういう意味でも遺伝子の多様性は非常に重要です。目に見えないと言うのが、非常にネックで、大事にしなくてはいけない。

(清水)保育園、幼稚園の先生方と話をする機会が多いのですが、それぞれの子ども達が、それぞれの個性の中で、多様に元気に過ごせればいいという方針で保育されておられる園が多いです。わたしたちの活動の、ひとつのテーマでもあるので、活動の中でも伝えて行けたらと思っています。

(津村)人間のひとつの意見だけだとうまくいかないことがありますよね。いろんな意見があって、合意して進んで行かなくてはいけませんね。だから、人間もいろんな人がいて、いろんな条件によって、いろいろな生き方があって良い。多様性が重要だと思います。

(清水)最後に、あらためて、私たちのこういう活動について先生からのメッセージをいただけたら幸いですが。

(津村)最初、こんな金にもならないこと、よくやるなぁと思っていました。(笑)だけど、実は素晴らしい活動ですよね。子ども達が、木を育て、山に植えるという経験はなかなかできないですよね。これを体験したお子さんは、大人になるころには森の価値がわかるのではないかと思うのです。木はこういう風に大きくなって森になり、こんな気持ちのいい場所になる。これが全国にひろがって、活動がすごく活発になると、将来にわたって日本の森林を守ってくれる人が増えると思って期待しています。

(清水)お忙しい中、本当にありがとうございました!

*関連資料:「広葉樹の種苗の移動に関するガイドライン」
「森林総研」ホームページ  http://www.ffpri.affrc.go.jp
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